- 作者: 梅原大吾
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/04/02
- メディア: 新書
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日本の、あるいは世界中の全格闘ゲーマーにその名が知られていると言っても過言ではない、超有名格闘ゲーマー「ウメハラ」。彼が本を出したと聞いて、三流格闘ゲーマー、というかただの格ゲー好きの僕も、思わず手に取ってしまった。出版見てから購入余裕でした。せっかくなのでレビューの真似事でも。
なお、本書発売に伴い行われたインタビュー、及びオンラインサイン会の様子をニコニコ動画で見ることが出来る。
本の内容の前に、まずプロ格闘ゲーマーである「ウメハラ」という人物のどこがスゴイのか、格ゲーを知らない人のために説明してみたい(格ゲーの何たるかくらいはさすがに自分で調べていただきたい)。
まず、とにかくムチャクチャに強い。プロなんだから当たり前だろうと思うかもしれないが、実際強いんだから仕方ない。なにしろ彼と対戦した強豪プレイヤーたちが異口同音に「一番強いのはウメハラだ」と公言し、その徹底した「やり込み(=練習)」ぶりを尊敬してやまない、というというのだから、その強さが月並みでないことがわかる。
近頃ネットでは「ウメハラはオワコン」などという輩もいるが、それは裏を返せば、強い人が100%勝てるわけではない格闘ゲームの世界においてさえ、「勝って当然、負けたら事件」と多くの人が考えているという、彼に対する期待の表れであると言える。その強さから数多の大会に優勝し、「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」としてギネスブックに登録されたこともある。
格闘ゲームを一人で遊んだり、たまにネットでオンライン対戦する程度のプレイヤーである僕も、「ウメハラ」の凄さを自分なり感じている。個人的な思い入れは「ギルティギア」というゲームにおける彼のプレイ。
同じ格闘ゲームでも、タイトルが変わればルール・システムがかなり変わる。それに伴い、対戦に勝つためのノウハウもガラリと変わってしまう。元々は「ストリートファイター」というゲームを主戦場としていた「ウメハラ」は、ギルティギアでなかなか成績を残せなかった。しかし持ち前の努力と執念により、ついには当時のトッププレイヤーと肩を並べるほどの実力にまで上り詰めてしまったというのだから、やっぱりスゴイ。
彼の当時のプレイは、現在でも動画としてネット上に残っている。彼のプレイスタイルの特徴は、『当てることが出来れば相手の攻めを挫き、自分に有利な状況に持ち込めるが、逆に外してしまうと自分がピンチに追い込まれるという必殺技「ヴォルカニックヴァイパー」を、ほぼ百発百中で相手に当てていく』という、膨大な対戦量・センス・観察眼を持つ彼にしか出来ないものであった。
さらにただ強いだけではなく、華のあるプレイヤーであることも「ウメハラ」を語る上では外せない。本書でも紹介されている「背水の逆転劇」に代表されるように、大舞台に強く、ここぞという場面で実力を発揮することで知られる。大雑把に野球選手で喩えれば「イチロー+新庄」といったところだろうか。
本書はそんな梅原大吾氏が、格闘ゲームとの出会い、挫折、復活、そしてゲーム周辺機器メーカー「Mad Catz」とスポンサー契約を交わしてプロ・ゲーマーとなるまでの道のり、さらに彼自身が持つ勝負観・人生観までを自らが語った、まさしくファン待望の、そしてファン必携の自伝となっている。
と、ここで断っておくと、僕自身はいわゆるビジネス書、自己啓発書の類に元々あまり興味が無い。とゆーかそういう本を一冊たりとも読んだことが無かったりする。なので、そういったジャンルとして本書がどうなのかについてはなんとも言えない。この本を読んで仕事が上手くいくだとか、格ゲーが上手くなるだとか、そんなようなご利益があるのかどうかは全然わかりませぬ。個人的には、そーゆーのは読んだ人次第じゃね?と思うクチである。
でも、本書全体のつくりに対しては、素直に好感が持てる。僕個人の感想としては「最初の章と最後の章の対戦の描写が若干クサイ」だとか、「時たまビジネスに絡めようとするのが鼻につく」といった点で気になる部分はある。しかしそれ以外のほとんどの部分で、普段の梅原氏の言動や、彼が雑誌「アルカディア」で連載しているコラムにおける発言等と通ずる部分があって、「ツクリモノ」っぽさがない。少々説教臭い部分があったりするのも、普段からスポーツ選手の自伝や将棋の棋士にまつわるエピソードに関する本を愛好している梅原氏らしいと考えれば納得がいく。
肝心の内容であるが、まずよかったのが、家族や少年時代、学校での出来事、麻雀に転向したきっかけや介護の仕事に就いたことなど、普段は語られることのないエピソードがふんだんに盛り込まれていること。どのようにして今の「ウメハラ」があるのかを、知ることが出来、ファンにとっては嬉しい。
圧巻なのは、彼の人並み外れた努力の量。こういうのを読むとつい「話、盛ってるんじゃないの?」と思ってしまうのは僕の心が薄汚れているからなのだが、「あのウメハラならこれくらいやりかねない」と思わせる説得力がある。
そしてもう一つの本書のウリは、梅原氏が普段どのような考えで練習や対戦・大会に望んでいるかということを、かなり突っ込んだところまで語っているということ。もちろん、コレを読めば即格ゲーが強くなれるといった類のものではないが、「人読みに頼り過ぎない」「勝つことにこだわり過ぎない」といった独自の思考法はなかなか興味深い。
「ただ勝つだけではなく『勝ち続ける』ためには、そのための意志が必要だ」というのが本書のタイトルの由来だ。勝つときもあれば負けるときもあるという勝負事の世界で長く戦い続けるためには、相当量の精神的負荷に耐え続けなければならないであろうことは想像に難くない。まして常に勝ちを求められるプロとなればなおさらだ。そのような環境で培われた彼の精神論・哲学が、生半可なものであるとは思えない。
もちろん、全てが正しかったり、万人にとって当てはまるようなことばかりではないだろう。しかし、その道のプロの意見として、格闘ゲームに関わりのない人々にとっても傾聴に値する部分が多いと思う。
なによりこの本によって、これからプロとしてますます活躍していくであろう「ウメハラ」を、そして対戦格闘ゲーム全体を、より多くの人に知ってもらえたらいいと思う。そう、僕もまた、ウメ信者の一人なのである。