- 作者: 久米田康治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/08/17
- メディア: コミック
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というわけで、さよなら絶望先生最終巻の第三十集のレビュー。普段マンガのレビューは書かないんだけど、大好きな作品なので。
絶望先生の最終回付近における衝撃的展開は、雑誌掲載時にネットの話題になった。結局最終話では、ある程度の解釈可能性を残しながらもハッピーエンドらしき大団円になったわけだが、前作『かってに改蔵』では単行本最終巻に『大蛇足』という大幅加筆をして物議をかもした久米田先生のことだから、絶望先生最終巻でもなにかやってくれるのではないか、というのが大勢の見方だった。
で、実際に発売された最終巻。スゴイ。素晴らしい。ハラショー。正直期待していたほどのボリュームではなかったものの、最後の最後でこんなにゾクゾクさせれるとは思わなかった。以下ネタバレ。
てっきり雑誌掲載では語られなかった伏線を回収してくれるのかと思ったら、まさかのアナザーストーリーだった第30X話。最初に読んだときはまさかの展開に驚いたが、よくよく考えたらスゴくよく出来てるな、と思った。
久米田先生が最後にこんな展開を持ってきた理由は、巻末の紙ブログで書いている通り、マルチエンディング的な終わり方にしたかったからなのだろう。改蔵の終わり方が大どんでん返しだった代わりに若干説明的になった感があるのと対照的である(余談だけど、「最終話の先に別の最終話がある」という構造は『ヴァルキリープロファイル』というゲームにちょっと似ていると思う)。
実際、雑誌掲載時での最終話も、人によって解釈が別れる終わり方だと思う。成仏したはずの風浦可符香がウェディングドレスを着て立っていたのはなぜなのか。三のへの誰かが依代となっていたのか、それとも「ヒロシ」のような霊体的存在なのか。
成仏直前の風浦可符香=赤木杏が先生の前に別れの挨拶をしにきた、というような感じに解釈すれば、かなりスッキリしたハッピーエンドになると思う。しかし、もし最後のシーンが、カフカがまだ成仏していないことを意味しているとしたら、第30X話に繋がるのではないか…と思わせる。
もっとも、第30X話の展開は、本編との整合性を考えるとちょっと無理がある部分が多い。おそらく、この話がアナザーストーリー的・パラレルワールド的なものであることを示唆するために、あえてそうしたのだろう。糸色望と面識があるはずの陸瑠羽子(以前登場した「元10Qハンズの女性店員」)が初対面として描かれているし。あと、かわりばんこにカフカを演じているはずの絶望少女達一人ひとりに子供がいるというのもちょっとおかしい。例えば、あびるがカフカを演じている間、あびるは「のぞむ」のことをカフカ(=あびる自信)と望の間の子供だと思い込んでいるとしたら、あびるが元に戻った場合、「のぞむ」はあびるの子供では無くなってしまう。まぁ、絶望少女達が全部わかった上で自覚的にカフカを演じている、というよりおぞましい解釈も出来なくはないけれど。
そもそもこんな風に解釈多様性が生まれてしまう原因は、糸色望というキャラが物語の最後までその本心を明かさなかったという部分に集約されるような気がする。あと、表表紙側の袖に書かれた「終わることば」の中の「マリアの円光」という部分がどういう意味なのか、個人的にちょっと気になる。
あとは何故臼井や一旧が出て来なかったのかとか、気になる部分はあるけれど、やはり全体としてみれば秀逸なエンディングだと思う。美しいエンドとダークなIFエンドの二段構えというのはとても久米田先生らしい。じょしらくも面白いけど、やはり久米田先生の次回作に期待したい。