rhの読書録

読んだ本の感想など

旅のラゴス / 筒井康隆

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

 この小説に興味を持ったきっかけは、『ドラゴンクエストV』という自分が最も好きなテレビゲームに影響を与えているらしいと知ってから。

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 そのソースは不明だが、今回はじめて読んでみて、たしかに両作品には共通する部分が多いと感じた。

 主人公が旅をする。奴隷になる。空間転移がストーリーに絡んできたり、「結婚相手を選ぶ」という場面も出てくる。最終章の「氷の女王」は雪の女王を思わせるネーミングだ。

 しかしストーリー自体は全くの別物。可能性があるとすれば、ドラクエがこの小説をリスペクトして作られたのではないかと思う。

 そもそも1986年に刊行されたこの小説自体、それ以前のファンタジー作品から影響を受けている感があり、後発のファンタジーベースのロールプレイングゲームとモチーフが似てくるのは不自然なことではないだろう。


 それとこの小説、ここ数年になって突然売れ始め、しかもその原因が不明であるらしい。

 謎のヒットに注目集まる 筒井康隆『旅のラゴス』が売れています! | 新潮文庫メール アーカイブス | 新潮社

 かなり信頼性の低い個人的予想だが、昔、某匿名掲示板まとめサイトで「名作小説○○選」に選ばれていた記憶があるので、そのへんから口コミで人気が出始めたのかもしれない。

 実際のところ、筒井康隆の作品の内(自分の読んだ中では)『時をかける少女』に次いでエンタメ要素が濃く、適度に難解で読みごたえがあるので、「筒井康隆入門」にピッタリかもしれない。

 かく言う自分も、長年いつか読みたいと思っていたのを、昨今の人気によって選ばれたであろう新潮文庫夏の100冊に入っているのを見かけて買った次第である。


 つくづく思うのだけれど、筒井康隆の怜悧な頭脳には感服しまくりである。

 その文章から膨大な知識量と頭の回転の早さがダイレクトに伝わってくるような書き手は、それほど多くはない。

 主人公のラゴスが長年かけて大量の書籍から知識を得るシーンが描写されるのだが、筒井康隆もそのようにして知識を得たのだろうか、などと思いを馳せながら読んだ。

 SF要素、ファンタジー要素、旅要素が目につきがちな本作であるが、個人的には「知性や知的活動への誘い」というテーマを強く感じた。

 その証拠、というわけではないが、ラゴスは様々な困難の解決や社会的成功を、もっぱら知性と、それを支える人間的な意志(およびある程度の運)によって成し遂げている。

 平たく言えば本作は「勉強って良いよ」というお話なのではないかと思う。まぁ僕がそう思うのは最近『勉強の哲学』という本を読んだからかもしれないけども。

勉強の哲学 来たるべきバカのために

勉強の哲学 来たるべきバカのために


 知を求め続けたラゴスが、最後にたどり着くのは、己の「魂のふるさと」とでも呼ぶべきものだった。

 その結末は実に人間的で美しく、この小説を名作たらしめている。素晴らしいオチである。


 それとこの小説、最後に登場する人物について、ある可能性が示唆されている。

 恥ずかしながら自分は、読み終わってからネットで書評を漁るまでその可能性に思い至らなかった。こんな読み手が感想文を書いても良いものだろうか。

 ちなみに架空の固有名詞が多く登場する本作だが、「マテ茶」というお茶は実在している。そのこと自体には多分意味が無いが、注意して読んで頂きたい。多分何かがわかる。